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Colorful! 100色こうち旅

タイトル

 愛媛県生まれの私にとって、お隣高知県は幼い頃から憧れの土地だ。文学の街松山は確かにお洒落で知的な風が流れているが、高知の方がどうも私の性には合っている気がしていた。高知は四国の異端児、大酒飲みで豪快な人々が多いと聞く。湖のように静かな瀬戸内とは違い、
ザバーンと太平洋が押し上げる桂浜を歩くと、なるほどこれを見て育ったら「事を成してみたい」という大きな気持ちになるのも頷ける。
大好きな坂本龍馬もこの海を眺め大志を抱いたという。

 私の育った四国中央市(当時は宇摩郡)は、四国4県の県境に位置したため高知もわりかし近く、家族でよく遊びに行った。海水浴することもあったし、市内に出てお城に行くこともあった。特に賑やかな日曜市の雰囲気が好きだった。観光客向けの市場というより何百年と愛されてきた地元の台所といった風で、籠から飛び出すほど大きな生姜や、土のついたお芋、お化けみたいにでかい文旦、懐かしい駄菓子屋などなど、おばちゃん達がゆるーく物を売り買いしている姿が自然で良いのだ。中でもカツオの生節が大好きで、お土産で祖父がよく買ってくれ、包丁で削ってマヨネーズをつけて食べるというのが私のお気に入りだった。
 去年の夏、久々に家族で日曜市に行った。お城までずらりと、アジアの屋台みたいに露店が並ぶ。特に呼び込みもせず、にこにこと座っているおばちゃん達を見ていると、ああ高知に来たなあという気がする。ここに龍馬がやってきて「おばちゃん、元気にしちゅうがか?」と声をかけても不思議はない。やっぱり龍馬はこの街の人だな、と私は一人妄想にふける。と、渋い陶器に出会った。土佐藩主である山内家御用達の焼き物、尾戸焼だ。後継者不足から窯が激減したそうだが、今再び注目されているとお店の人が話してくれた。青みがかった白地に絵付けの紺が何とも上品だ。滑らかな質感の飲み口も良く、湯呑みやお猪口をお土産にいくつか買う。続いて土佐包丁も購入してしまった。職人さんの技が光る生活用品に目がない私にとって、日曜市は何時間見ていても飽きない宝物の山。子どもの頃とはまた違った市の楽しみ方だった。

 ところで、今年は高知県にとって重要な年になることを皆さんご存知だろうか。坂本龍馬が生誕して180年になるのだ。私が彼に夢中になり始めたのは小学生のとき、漫画『おーい!龍馬』がクラスで大流行したのがきっかけだった。こんなすごい人がお隣の県の人だったんか! と思うと、俄然自分も頑張ろうという気持ちになれた。「すごい人」と言ったが、幼いころの龍馬が泣き虫のいじめられっ子で、乙女姉さんに鍛え上げられ強くなったというのは有名な話だ。そんな龍馬が薩長同盟という偉業を成し遂げることができたのは「あの人のためだったら」と皆が助けたくなるような人だったからではないかと幼いながらに思った。負けたときの痛さを知っていた龍馬は、政治家というよりも人として魅力的だったのだろう。こういう人に私もなりたいと常々龍馬さんを意識してきたように思う。
 そんな龍馬が結んでくれたご縁で、昨年の秋に高知市主催の「坂本龍馬まつり」にトークで出演し、熱く熱く幕末を語ってきた。また、地元バンドのスーパーバンドさんと、音楽×詩の朗読でセッションもし、ますます高知との距離が縮まって嬉しい限りである。

 龍馬が脱藩の際に高知から愛媛に抜けたといわれる「脱藩の道」に昨年、大洲方面から少し歩いてみた。当時、脱藩は見つかれば死罪。相当な決意と覚悟だったに違いない。司馬遼太郎が、著書『街道をゆく』の中で「鳥でないかぎり(容易に進めない)」と表したように、正に脱する者の道だった。いつか梼原方面から歩ききってみたい。何もかも整い、満たされすぎた現代だからこそ見えにくくなっているものが沢山ある。生誕180年を機に、先人の志や生活から今一度学ぶことは多いのではないだろうか。

 高知と聞いて、もう一つオススメしたいのが高知城である。高知城の天守は松山城や丸亀城、宇和島城と同じく国の重要文化財に指定されているのだが、何よりもすごいのが、本丸御殿が残っていることだ。本丸の全てが現存しているのは全国でも高知城だけ。お城は小ぶりだが、江戸時代のままの姿で残っているというのは城好きとしては鼻息が荒くなることだ(改築はしているものの)。城壁のいたるところに雨の多い高知ならではの工夫も見られて、何十回行ってもロマンスの渦にまきこまれる場所だ。もちろん桂浜へ行き、坂本龍馬記念館に行ったり海岸を歩くのもいい。武市半平太の生家とか、室戸の中岡慎太郎像とか、そりゃあもうお勧めを言い出したら書ききれないけどね。
 高知に行く度に高知が好きになるのは、龍馬も高知の人々も寛大に私たちを迎え入れてくれるからだ。四国4県それぞれに良いところがあるが、高知は龍馬みたいに自由奔放な末っ子のイメージ。他の3県はその自由さを、羨ましいなあと微笑ましく見ている。これからも仲良く、どうぞよろしくね!

(2015年4月)

<プロフィール>
高橋久美子(作家・作詞家)
1982年愛媛県生まれ。
鳴門教育大学在学中にロックバンド、チャットモンチーのドラム・作詞家として加入、2005年メジャーデビュー。
2011年、バンド脱退後は作家・作詞家として活動する他、若手クリエイター達と、詩と絵と建築空間の展覧会「ヒトノユメ展」を全国各地 で開催し、斬新な展示内容が話題となる。
幕末好きとしても有名で、歴史イベント「高橋久美子が行く!」を開催するなど様々な方面で活躍している。
主な著書に、エッセイ集『思いつつ、嘆きつつ、走りつつ、』(毎日新聞社)など。

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