観光博覧会「牧野博士の新休日」は終了しました。
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第4回 第4回
『植物園とフラワーパークって何が違うの!?』
はい、目的や役割が違います。植物園は研究教育機関なのです。
植物って身近にあるけれど、実はあまり知らないし、専門的なことはちょっと苦手。。。
そんな方のために、高知県立牧野植物園の藤井聖子さんがわかりやすく、
植物にまつわる「へえ、そうなんだ!」を解説します。
植物園の本来の目的や役割を知っていただきたい
高知県立牧野植物園 南国(提供:高知県立牧野植物園)
高知県立牧野植物園 南園(提供:高知県立牧野植物園)
私たちの情報発信やご案内がまだまだ不十分なところもあって、植物園がどのようなところなのかご存知ない方が多いのかな、と感じています。
私が勤務する牧野植物園でも、来園された方から「ちょっとあなた、花が全然ないじゃないの!」とおしかりを受けたり、すでに園内におられるのに「すみません、植物園はどこですか?」と尋ねられたり。 ガーン!とショックを受けることがあります。 ヒマワリやチューリップなどカラフルで大きな花が園内にたくさん咲いているフラワーパークや公園のようなイメージをお持ちなのか、足元の小さな草花や彩りの少ない植物にはなかなか目を留めていただけません。 また、植物園 = 温室と思われている方も少なくないと思います。
来園される皆さんにご満足いただけるよう 努めておりますが、植物園の本来の目的や役割、機能を知っていただくことで、もっと様々な植物に関心を持つきっかけとなればうれしいです。
高知県立牧野植物園 50周年記念庭園
高知県立牧野植物園 50周年記念庭園
植物園は植物の研究・教育機関
植物園は本来、植物の研究や保全、そして教育を目的とした施設です。
牧野植物園では3,000種類以上の植物を公開展示していますが、すべての植物に個体番号を付与し、それぞれがいつ、 どこに生えていたのかなど大切な情報を紐づけし、“生きた標本”として研究材料に活用できるようになっています。 逆に、来歴不明な植物は研究に使えないのです。
植物園は植物学的・園芸学的に価値のある植物を扱う研究機関であるということが、フラワーパークや公園との大きな違いです。
高知県立牧野植物園 植物研究交流センター
高知県立牧野植物園 植物研究交流センター
フラワーパークに植栽される植物は鑑賞価値が高く、木陰を作るためといった目的を達成できれば植物の来歴は問われません。 そのため、園芸用に生産された草木を植えることが多いと思います。
一方、植物園では管理・保全していている植物の中から、教育普及目的で植栽・展示しているものをご覧いただいています。 「美しい」はあくまでも副次的な要素なんです。 ただ、それだけでは万人にウケませんので(笑)、牧野植物園にも一部、フラワーパ ークの要素が入ったエリアができました。 とはいえ、正しい園芸品種名、流通名をラベルに掲示するなど、植物園であることを強く意識しています。
高知県立牧野植物園 土佐の植物生態園
高知県立牧野植物園 土佐の植物生態園
知る、守る、伝える。植物園の「三大機能」
植物園には、植物を「知る・守る・伝える」の三大機能があります。
植物を保全するためには、まず知ることから。 研究員が各地に赴き、採集した標本をもとに分類研究を行ったり、 絶滅危惧種・外来種などの分布調査などを実施したりして、多角的に植物を調べています。
その中で、絶滅危惧種に代表される保全すべき植物については、種子から実生栽培を行ったり、移植したりして増殖方法を検証し、現地での保護増殖に活かしています。
植物の植替え作業を行う栽培技術課の職員(提供:牧野植物園)
植物の植替え作業を行う栽培技術課の職員(提供:高知県立牧野植物園)
植物は本来、生育地で守るのがベストですが、どうしても難しい場合は、牧野植物園で保全しています(これを生育域外保全といいます)。
そして、こうした植物の状況について多くの方に伝え広め、知っていただくことがとても大切。 絶滅の危機に瀕している植物があることに少しでも関心を持っていただき、保全に協力していただけるような情報発信と園地づくりに励みたいと思っています。
植物の危機を知らせる1本の電話が、
地域の宝を知るきっかけに
植物の危機を知らせる1本の電話が、地域の宝を知るきっかけに
私たち植物園の職員も人数に限りがあるので、いつでもどこへでも行けるわけではありません。
やはり、地域の植物のことは地元の皆さんによく知っていただき、見守り、育んでい ただくのが一番です。
ある時、希少な水草の自生地で講習会を行いました。
その際に病院の駐車場をお借りしたご縁で、その病院の職員さんも現場にお連れして植物を実際に見てもらい、どれだけ希少かを熱弁させていただきました(笑)。 すると、それから3年後。病院職員の方から牧野植物園に連絡が入りました。
「希少な水草の自生地が河川工事で壊されてしまいそうです。大丈夫でしょうか」と。
講習会に参加していただいたあの日以来、普段から地域の宝を気に留めていてくださっていたんです。 一報を受けた植物園が急ぎ、工事を管轄する自治体に連絡を入れました。 実際には水草の生育地とは別のエリアで河川工事が行われたため事なきを得ましたが、これこそがまさに、「地域で守る力」なのです。
佐川町:バイカオウレン
佐川町:バイカオウレン
牧野博士の“遺言”を胸に
「高知県にはたくさんの人々に自然、植物の魅力を伝えられる資源があります。 でも、その資源を守り伝えるのは簡単なことではありません。 地域の方々と協力して、私たち植物園として果たすべき役割があると考えています。
牧野博士は、牧野植物園の設立に尽力した方へ手紙をしたためています。
「暖帯の様々な植物を集めて立派に園を計営し、外来の観光者などを『さすがは土佐だけの事はある』と絶賞するようにしてもらいたいものです」と。
牧野植物園は博士が亡くなった翌年に開園しましたので、私はまさに園に対しての遺言のようなお言葉だと思っています。 その思いを胸に、さすが牧野博士を輩出した高知県だね、と言っていただけるよう、全力を尽くしたいと思います。

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◆藤井聖子(ふじい・せいこ)
藤井聖子さん
1980(昭和55)年、大阪府枚方市生まれ。高知在住歴17年。
幼いころから自らの手で栽培するほどの植物好き。東京農業大学農学部農学科を卒業後、神戸大学大学院理学系研究科博士前期課程(理学修士)、 医療系メーカーを経て、2007年より牧野植物園に勤務。
栽培技術課で16年間、50周年記念庭園・土佐の植物生態園・牧野ゆかりの植物などの管理に携わり、 2022年9月から高知県内各地の地域観光を支援するため植物研究課草花活用支援専門員兼教育普及推進課ガイド解説員に。
樹木医、学芸員、自然観察指導員。
【高知県立牧野植物園(高知市)】
高知県立牧野植物園(高知市)
提供:高知県立牧野植物園
牧野博士の希望により高知市の五台山に造られ、牧野博士逝去の翌 1958年4月に開園。
自然環境と調和した四国唯一の植物園です。 起伏を活かした約8haの園内には牧野博士ゆかりの植物や野生植物を中心に約 3,000種類の植物が四季を彩り、「人と自然の関係を大切にした安らぎと憩いの空間」を醸し出しています。 植物の多くは採集地が明らかで、まさに生きた標本。 牧野富太郎記念館は植物研究や教育普及の拠点となっています。
展示館の「牧野蔵」や「牧野富太郎の生涯」では、牧野博士の貴重な自筆の植物図や採集した標本、博士が歩んだ人生をめぐる展示物を観賞できます。
【所在地】 高知市五台山 4200-6
【開園時間】 9:00~17:00(最終入園 16:30)
【入園料】 一般 730円(高校生以下無料)、団体 630円(20人以上)
※施設概要などの詳細は、こちらの公式サイトをご覧ください。
【電話】 088-882-2601