高知の食は、つくる人が熱々。人熱々料理

「廣末屋」では、
店主が嘆くほどニラを盛る。

最初見たときは恐ろしいほどの量やと思ったけど、今はこれくらいないと、逆にもの足りんくらいになってしもうた。もともとお好み焼きの店っていうのもあって、お好み焼きとかの鉄板焼きも絶品やき、家族で来たときは「お好み焼き」と「ニラ塩焼きそば」をみんなで分けゆう。

常連さん

実は塩だれの塩梅もすごく難しい。この分量はできた当初からスタイルは変わってないけど、それに行き着くまで結構試行錯誤した。

旅行客の方

常連さんには「京ちゃんはカツオやねえ」って言われる。
うまく休むのが苦手やきか、動きよらんと(働いていないと)死ぬらしい。

常連さん

噂のお店は、高知市から東へ車で30分ほどの香南市夜須にある「廣末屋」。国道55号線にあるヤシィ・パーク(海の公園)や道の駅やすから、北へ向かって5分ほどの道沿いにひっそりとたたずんでいる。高知県の特産の1つでもあるニラを使った塩焼きそば…名前だけ聞くと簡単に想像がつくかもしれない。
しかし、一度見たらきっと忘れられない。すでに多くのメディアにも出演、取り上げられているため、知っている高知県民も多いだろう。ただ、「店主が嘆いているのに盛ってしまう」とはいかがなものか。下手したらクビにされるのではないか。真相を確かめに行ってみた!

広末 京子さん、成文しげふみさん
「廣末屋」の店主親子。ふだんはお父さんも合わせて3人で経営。
耳のパールがおしゃれで話しやすい京子さん、口数多くはないが快く取材を受けてくれた成文さん。
まるで焼きそばの麺と野菜のようなバランスのとれた2人。
聞き手:池田
高知出身。取材経験のない、戦闘力ゼロのアラサー。好きなものはグミ。

──おぉ!店構えがすばらしくレトロだ…。挨拶前にパシャっと~!

池田

写真パシャパシャ(いや~ひさしが傾いてるぅ!最高!!)

(ガラガラ…:店の開く音)

息子さん

お、取材の人?

池田

はい、今日はよろしくお願いします!
少しはやく着いてしまったので外で待ってます。

息子さん

ごめんよ、さらにあと4人来ることになったき、ちょっと待ちよって。

池田

もうお昼の閉店時間なのにまだまだお忙しいですね・・・!
こちらは全然かまいませんので、また声かけてください!!

息子さん

わかった~

池田

(口数少なそう&かなり忙しそう…取材、大丈夫かな・・・)

(数秒後ガラガラ…:店の開く音)

息子さん

暑いき、中入って待ちよってかまんで~。

池田

(え、めっちゃ優しいですやん…ギャップ萌え・・・)
うぅ!ありがとうございます!いとも簡単にお言葉に甘えますっ!

──いざ、入店。

(ジャーーーーー!ジャッジャッ!!!)

(いきなり眼下に広がるニラの海)
池田

あれ?名物ってニラ焼き?
(違うよ、焼きそばだよ。)

お母さん

ごめんよ!まあ、これでも飲んで待ちよって。

(すでに入れたコーヒーをグッと押しつけてくれた)

(数十分後)お客さんが帰ったあと、取材開始。まずは噂の真相を。

池田

「高知の食はつくる人が熱い。人熱々料理」というキャッチコピーのもと、 高知の食や人にまつわるエピソードを調べていまして。
廣末屋さんは「店主が嘆くほどニラを盛る」という噂がありましたが・・・?

お母さん

嘆いて~・・・ないね~。

池田

ありゃ・・・(取材おわった・・・)

お母さん

嘆いてはないけど、このニラ焼きそばができるまでは、家族で色々試行錯誤したかな。そこから数十年、レシピは変えてない。

池田

レシピがずっと変わっていない?!でも値段は安いままですよね?
材料の高騰もあるし、特に家族経営なら、もめたりしませんか?

お母さん

値段については、ずーっと家族会議(ケンカじゃないよ)。
でも、このくらいの値段で維持できているのは、近所のニラの生産者さんあってのこと。それだけは本当に助かっちゅう!

このニラ塩焼きそばができたきっかけとは?

池田

そもそも店名が「お好み焼き 廣末屋」ですよね?
ニラ塩焼きそばがメインではなく?

お母さん

もとは自分が高知市内でお好み焼き屋さんをはじめたのが最初。
一時はヤシィ・パークでもお店をやりよったりしたけど、息子の高校卒業や、実家のリフォームとかいろんなタイミングで、今の場所に。

池田

外から見ると「酒屋」さんのような看板も出ていますが?

お母さん

外装は、実家がずっとここで雑貨屋のようなことをしていた名残り。
ここへ帰ってくるときに、お好み焼き屋さんができるように内装だけを変えたのよ。

池田

・・・ということは、地元の人には馴染みもあるし、飲食もできるし、すごくありがたい場所ですね!

お母さん

色んな人がそう言ってくれるけど、ありがたいのはこっち。
うちも、どうしても観光客の方だけじゃ、商売はやっていけない。
こうしてお店をし続けられるのは地元の人に利用してもらってこそ。
最近は、『(観光客が多くて)土日は忙しいろうき、忙しい時間帯とかは避けてきゆう』って言ってくれる。

(奥で地元のおんちゃんが1人でお好み焼きを食べつつ)
(手前で地元の家族連れにニラ焼きそばを作る)
池田

では、ニラ塩焼きそばは、いつごろから?

お母さん

これは!本当にいろんなご縁があってできたのよ~
数十年前の当時、観光協会におった人に『この塩だれを使って、香南市の名物を作って欲しい』と言われたのが最初。香南市はニラも有名やき、それも使ってね。
塩だれってなんでも美味しくなるようやけど、シンプルな分、すごく難しくて、苦労した。

池田

なぜ・・・この大量のニラを入れるようになったのかと言いますと・・・?

お母さん

息子よ~。元相撲部で手が大きいもんやき、試作しゆう間に”まあ、こればあで!”みたいな感じで作るようになったね。

息子さん

せっかくやき、焼きそばにニラがちょこっと入っちゅうよりかは、ニラを食べて欲しくて。(ボソッ)

池田

(お兄さんそこ大事ッ!大きな声で大丈夫ッッッッ!)

お母さん

まぁ、せっかくやき、食べてい――

(ジャー!ジャッジャ!:すでに調理開始)

池田

(ほほう、まずはニラの茎とか火の通りにくい部分→麺ですね・・・)
(元相撲部の方のふた掴みはすげえ量ですな…)

(無言でさらに追いニラふぁさーーーーーーーーっ)

池田

ちょ!お兄さんッ?!

(▲結果、この量である。麺150gに対して、ニラ300g。)
(▲魔法の塩だれを何回か合わせる)
(▲麺が隠れるほどのニラ)
(▲仕上げに天かすや、糸唐辛子をトッピング。
コーヒー缶から刻みのりが出てきたのを見逃さなかった。良き。)
池田

ま、まぶしいっ!ニラしか見えない!

(写真連写)

池田

分け入っても 分け入っても 青いニラ とはこのことかぁッ!!!

息子さん

はよう食べよ…。(ボソッ)

池田

ニラが、ニラなのに、すごく食べやすいです!シャキシャキッ――

(食べながら写真連写)

池田

よくお祭りで食べたりするようなニラとは完全に別物ッ――

(食べながら写真連写)

池田

これはテイクアウトしたい人が多いはずッ――

(食べながら写真連写)

お母さん

それ、よく言われるけど
このニラ塩焼きそばだけはテイクアウトは全部お断り。

池田

え?!
実家の祖父母や両親にも食べさせてあげたいんですが?!(半泣)

お母さん

残念やけど、この美味しさは鉄板で焼いた直後じゃないと出せんのよ。 この間にも、ニラからどんどん水分が出たりして、鮮度が落ちていく。 このくらいニラが入っている焼きそばだから、鮮度が落ちると、逆に食べづらくなるのよ。

池田

もともとお好み焼き屋さん(鉄板焼き)というベースがあってこそ、出せた味でもあるんですね!

お母さん

うん。だから喋るのはあとで良いき、はやく食べてよ。

(数秒後、お母さんが遠い目をしながら…)

お母さん

最近、スマホを見たり、写真をすごい撮ったりしてゆーっくり食べるお客さんがちょっと増えたのよ・・・。
自分達は『ニラが美味しくなくなるき、はよう食べて欲しい!』って、こっそりずっと思いゆう。あまりにも・・・な時は、もう声かけゆう。
だから、そろそろ張り紙でも貼ろうかな。
『喋る前にはよう食べ』って。(ボソッ)

池田

・・・ハッ!(俺たちだ…!)

お母さん

(こちらをチラッと見る)

池田

ご、ごっつぁんでーーーす!!!

- 終 -

熱冷まし(取材後のつぶやき)

これでも、文字数上いろいろ端折りました。でも言っておかないといけないことを端的に。

★ニラ塩焼きそばには、味変用のレモンがついてきます。 取材時には、地元で育てたグリーンレモンでした。市場には出せないB級品とのことでしたが、まったく味は問題なく、むしろその日は自分の指から終日爽やかなレモンを感じていました。

★色んな方々への感謝がすごいです。

  • ・ニラ農家(松山さん:息子さんのお知り合い)のおかげで、新鮮なニラをほぼ毎日仕入れることができる
  • ・観光協会(当時いらっしゃった足達さん含む)のおかげで、ニラ塩焼きそばができた
  • ・地元の方々のおかげで、地元で営業をしつづけられる
  • ・取材やお客さんのおかげで、自分たちで情報発信できずとも、お客さんが来てくれる

・・・など、取材中ずっと感謝を口にされていました。

★正直、数々の有名なメディアに出ているので、こんな地味な取材には塩対応されてもしょうがないと思っていましたが、訪問した最初から「すごいお店はほかにもこじゃんとあるのに…こんな田舎の店に来てもろうてありがたい。」とか「忙しいときはどうしても提供することに一生懸命になってしまう。愛想が悪いと思うお客さんもおると思う。」と 寂しそうに答えるお母さん。口数は少ないが、呼ばれたらすぐ来てくれて、色々説明してくれる息子さん(バイトさ んにも「もう帰る時間で!帰りよー!」と声がけされていました)。
家族でこそ醸し出せる空気感、おもてなしの塊でした。地元の人がついつい長居してしまうのが分かりました。

★そして、お母さんはなんと”広末京子”さん・・・。
素敵なお名前ですね、というと「ふふっ。結構間違えてくる人がおったで!」と愛嬌ばっちり。
お忙しい中、本当にありがとうございました。

\そんな高知の熱々な料理人に会いに来て欲しい/

廣末屋
住 所 高知県香南市夜須町上夜須
182-1GoogleMap
電 話 0887-54-3226
営業時間 【昼】11:00~14:00
【夜】17:00~22:00
定休日 無休(年末年始)
駐車場 有(店舗周辺)

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