高知の食は、つくる人が熱々。人熱々料理

「土佐ひめいち」のお母ちゃんたちは、 お父ちゃんたちが獲った魚を無駄にしたくない!

「土佐ひめいち」は、漁村のお母ちゃんたちが「お父ちゃんたちが獲った魚を無駄にしたくない!」という思いから、立ち上げた団体。7~8年前にツアーでお伺いすると、豪華な魚料理でもてなしてくれました。そこには、大勢のお父ちゃんたち漁師もおり、魚を焼いたりしていましたが、途中からは酒を片手にツアーのお客さんとどんちゃん騒ぎ。予定していた滞在時間を過ぎても止まぬ宴会に、担当者としてヒヤヒヤでしたが、ツアーのお客さんからは大好評でした。

常連さん

「土佐ひめいち」の体験ツアーでは、郷土料理である“きびなごのほおかぶり”や、旬の魚を使った料理の体験・試食のほか、漁師たちがつくった竹竿での釣り体験や、ロープワーク体験などもプログラムしています。

旅行客の方

四国最南端・高知県最西端の駅である「JR宿毛駅」。そこから南へ車で約15分の場所にある栄喜さかき地区には、「漁師の“お父ちゃん”たちが獲った魚を無駄にしたくない」との思いから結成された「土佐ひめいち」があり、メンバーである“お母ちゃんたち”がつくった美味しい魚料理を、体験ツアーで堪能できるらしい! しかも、ツアー中には、お父ちゃんたちがお酒を片手に乱入してくることがあるんだとか…。魚料理とお酒に目がない筆者は、さっそく宿毛市へと車を走らせた。

河原 多絵さん
「土佐ひめいち」の代表であり、漁師の妻でもある河原さん。宿毛市の郷土料理“きびなごのほおかぶり”の考案者で、土佐の料理伝承人に選定されている。
聞き手:畔元
高知県在住のフリーライター。横長の高知を西へ東へ駆け巡っている。高知の大自然とお酒好き!

──高知市内から車で約2時間半。美しい海や山沿いの道を通って宿毛市へ!

畔元

こんにちはー! 先日ご連絡いたしました「人熱々料理」の取材でお伺いしました。

河原

こんにちは。遠かったでしょ? 今料理の準備をしゆうけん、どうぞ中に入ってください。

畔元

ありがとうございます。では、失礼しまーす。

河原

えーと、7~8年前にツアーで来てくださった方のエピソードについての取材でしたっけ?

畔元

はい。ツアーで「土佐ひめいち」のお母ちゃんたちがつくったお魚料理を食べていたら、途中から漁師のお父ちゃんたちもお客さんと一緒にお酒を飲みはじめて、どんちゃん騒ぎの宴会になったとか。

河原

あははは! そんなこともありましたねー。当時は旅行会社さんが組んでくれたツアーで、人数も多くてわいわいしていたので、お父ちゃんたちも我慢できなかったんでしょうね(笑)

畔元

今日も、外にお父ちゃんたちがいましたが!

河原

そうそう。実際にツアーを体感してもらいたいけん、お父ちゃんたちも呼びました。
あと、新鮮な魚も用意しているので、たくさん食べていってくださいね。

畔元

わー、ありがとうございます!(歓喜)

(どーん!!!!!!)
畔元

す、すごい! この魚介類全部使うんですか?

河原

もちろん! 郷土料理の“きびなごのほおかぶり”も用意しちゅうけん、楽しみにしちょってね。

畔元

嬉しすぎる…。こんなに素敵なツアーがあったなんて。いつ頃からツアーをはじめられたんですか?

河原

15年くらい前ですかね? 当時は旅行会社さんが組んでくれたツアーが多かったけん、ここでつくった料理を近くにある栄喜漁港で食べもらいよったがやけど、今は「体験ツアー in 土佐ひめいち」というのをつくって、ここで料理体験と食事の両方を楽しめるようにしています。

畔元

料理体験!? どんなことができるんですか?

河原

その日つくるメニューの中から、お客さまがつくってみたい料理の工程の一部を体験してもらっています。例えば、“きびなごのほおかぶり”を成形してもらったり、すり鉢で魚のすり身をつくったり、魚を捌きたいという方がいれば、包丁の入れ方などを教えながら捌いてもらったりしています。

畔元

へー! 楽しそうですね!

河原

もちろん、料理も体験してもらおうと思って、準備してますよー。

畔元

わぁお、至れり尽くせり。

(わいわい、ザクッザクッ、ジュージュー、グツグツ…)
畔元

はぁぁぁ美味しそう…。さっきから見ていて思ったんですが、魚の頭とかアラとかも、全部使うんですね!

河原

使います、もったいないけん! それに、この部分が美味しいんですよ。お出汁もたくさん出るし。

畔元

はっ!! 「もったいない」で思い出したんですけど、「土佐ひめいち」さんの設立のきっかけは、「お父ちゃんたちが獲った魚を無駄にしたくない」という思いからだったんですよね?

河原

えぇ、そうです!

──ここで本題の「土佐ひめいち」さん設立のお話へ。

河原

20年ほど前までは、市場に魚を卸しよったがやけど、市場相場が安いときは、赤字になることもあったんです。せっかく頑張って獲ってきたのに、悲しいでしょ?

畔元

複数人で漁に出るでしょうし、船のガソリン代もあるから大変ですね…。

河原

そうなんです! だから、地元のお母さんたちと組んで、お父ちゃんたちが獲った魚でお惣菜をつくって移動販売しようと思ったんです。

畔元

なるほど。移動販売からスタートしたんですね。

河原

今は冷凍や真空の技術もアップしたから、全国の飲食店やホテルにお届けしています。

河原

ところで、イカはどうやって食べたいですか?

畔元

へっ? どうやってというのは…?

河原

イカ焼きがいい? それともしゃぶしゃぶ? イカバターにしても美味しいですよ!

畔元

えっ、ではイカバターで! 体験ツアーのメニューって決まってないんですね!

河原

えぇ。メニューを決めてしまったら、必要な魚をあらかじめ用意しないといけないので。それよりも、今日はこの魚が獲れたから、あのメニューをつくろうってしたほうが、本当に美味しい料理を提供できると思うんです。獲れた魚の種類や大きさ、旬の時期かどうかによっても、メニューを変えていますよ。

畔元

なるほど、鮮度にかなう調味料はないんですね。さすが漁師の奥さま!

(イカとバターを炒める良い香りがふわり…。)
河原

お次は、郷土料理の“きびなごのほおかぶり”をつくりましょう。

畔元

“きびなごのほおかぶり”とは、どんな料理ですか?

河原

幡多地域では、甘酸っぱく味付けしたおからをウルメイワシで包んだ“ろくやた”という料理が古くからあるのですが、宿毛はキビナゴも有名なので、ウルメイワシの代わりにキビナゴでおからを包んでみた料理です。

畔元

河原さんが考案したんですね!

河原

はい。キビナゴは捌くとキラキラしてキレイだし、ウルメイワシほど脂っぽくないけん、さっぱりしていて美味しいですよ。

畔元

へー、楽しみです!

河原

よかった! 今日はそんな“きびなごのほおかぶり”の成形を体験してもらおうと思っていたので。

畔元

ぜひ、やってみたいです。

(あらかじめ味付けをしてくれていたおからを、キビナゴで包んでお皿に円形に並べていきます。)
畔元

コロンとしていて、かわいいですね! 本当にキラキラしていてキレイ!

河原

実は、この“きびなごのほおかぶり”は、JALのファーストクラスに乗ったこともあるんですよ!

畔元

えっ! ファーストクラスに!

河原

はい。地域に根ざした郷土料理をつくっているということで2007年に“土佐の料理伝承人”に選定いただいたんですが、そこからいろいろなご縁が重なって、2016年にJALのファーストクラスの機内食に採用していただきました。

畔元

すごいっ! じゃぁ私は今日、ファーストクラスの料理をいただけるんですね!

河原

あははは! なんかそう聞くとすごい料理みたいに聞こえるねー(笑)

(“きびなごのほおかぶり”完成!)
河原

では、隣にある海の見えるスペースで、みんなで食べましょう。

畔元

わーい!(屋外スペースに、ぞろぞろ…)

河原

お父ちゃん! 料理できたけん、みんな呼んできてー!

【お父ちゃん】

おおお、美味しそうやねー。ビールも冷えちゅうかえ?

畔元

や、やっぱりお酒飲むんですね!

【お父ちゃん】

いやっ毎回飲むわけじゃないでー! お客さんがお酒を飲みよったり、一緒に飲んでも良さそうな雰囲気やったら、た・ま・に!(笑)

(ご馳走がずらり!!!)
(かんぱーい!)
畔元

ああああ、 私もビールが飲みたいー! こんなことならカメラマンの車に乗せてきてもらうんだった…。

河原

もぉ、今日は宿毛に泊まっていったらいいわ(笑)

畔元

本当にそうしたいくらいです。次来るときは、泊まりがけできます!

【お父ちゃん】

次来てくれるなら、釣り体験とロープワーク体験もしていきや。今は寒い時期やき、あんまり釣れんけど、3月から10月末くらいまでは、季節ごとに色んな魚が釣れるきねー。

畔元

いやー、「土佐ひめいち」さんの体験ツアー充実していますね。友達とか家族で来ても楽しめそう!(もぐもぐもぐもぐ…)

(グレの焼き切りとブリのしゃぶしゃぶ)
【お父ちゃん】

料理ばっかり見てないで、海も見てよー。あれ、うちの船で!

畔元

おおお! この建物の目の前にあるんですね!

河原

そうなんです。

(お父ちゃんの船は4隻もあるんだとか!)
畔元

お父さんたちは何漁をしているんですか?

【お父ちゃん】

まき網漁業。大きな網で魚の群れを囲うて、巾着の紐を締めるみたいに網の底を閉じて漁獲するがよ。

畔元

へー、主にはどんな魚が獲れるんですか?

【お父ちゃん】

キビナゴとウルメイワシはもちろん、ブリ、カンパチ、グレ、ヒラマサ、サクラダイ、アジ、カマスとか、そりゃーもう色んな魚よ!

畔元

美味しそうな魚ばっかり!

【お父ちゃん】

(にやっ)

- 終 -

熱冷まし(取材後のつぶやき)

実は、料理中につまみ食いをさせてくれたり、「熱々を食べてほしいから」と食事中に実演でキビナゴとカマスの天ぷらを揚げてくださったり、食べきれなかった炊き込みごはんなどをお土産で頂いたり、帰る際は見えなくなるまで手を振って見送ってくださったりと、まだまだ伝えきれなかったことがたくさんあります!

★「土佐のひめいち」のメンバーは現在4人。設立当初からメンバーの梅さんがつくったお漬物は、ご飯が何杯も食べられそうなほど美味しかったです。

★河原さんのご主人は、この地域の網元の、なんと8代目! 「何年ぐらいの歴史があるんですか?」という質問に、「分からん(笑) 100年はとっくにこえちゅうやろうねー」と、すごい歴史をテキトーに答えてくれました。

★事前に相談すれば、船で近くの浜に連れて行ってくれるそうなので、海で泳ぐこともできます。海に潜って取った貝は、貝飯にしてくれたりするそうですよ!

\そんな高知の熱々な料理人に会いに来て欲しい/

土佐ひめいち
住 所 高知県宿毛市小筑紫町栄喜566-66GoogleMap
電 話 0880-67-0260
受付時間 8:30〜13:00
受入時期 3月下旬~10月末頃
※受入時期以外は応相談
体験料金 1名4000円~
※5名から受付

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